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【芸大入試のリアル③】専攻実技 4つの“常ならぬ事態”

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大学入試は人生の岐路である。

「そんなことは言われなくてもわかっている。心をかき乱さないで欲しい。」

そう感じる受験生は、以下は読まないで頂きたい。

しかし、受験が2年後、3年後、さらにずっとその先で、「入試の課題曲は学コンに比べればレベルが低い。冬場まではコンクール対策で押して、その勢いで受ければ、入試なんて楽勝」と、入試をコンクールの延長、あるいはそれ以下と、かなり甘く考えている人は、ぜひこれから書くことを読んで、藝大専攻実技のリアルと今から向き合って頂きたいと思う。

これは早ければ早いほど良い。

“見ないふり” して遠ざけてはならない

藝大入試の専攻実技試験には、あなたがこれまでの演奏人生でまだ一度も経験したことのない未曾有の事態が待ち受けていると思っておいたほうがよいだろう。

いかにコンクール経験が豊富でも、それらに関して何の対策もしなければ、合格を手にするのは容易ではない。

実際、コンクールの入賞実績がある受験生が、入試の専攻実技で落とされるケースは、それほど珍しくはないのだ。

入試で待ち受ける事態について深く考えすぎると、かえってプレッシャーになってしまうので、それを見ないふりして、やり過ごし、「何とかなるだろう」という気持ちのまま受験に臨んでしまうケースもあるが、それはリスクの大きさから言っても、少々無謀と言わざるを得ない。

ここでは、人生の岐路となる入試に伴う専攻実技の4つの常ならぬ事態と、それらがもたらす心理的状況をあえて挙げてみることにする。

まずはそれらに正面から向き合って頂きたいと思う。

「チャレンジは1度きり」という切迫した状況

コンクールなら、駄目でも別のコンクールがある。「学コン」は1年に1度だけだが、毎年受けられる。

しかし大学入試は落ちれば、1年後、しかもそれがほぼラストチャンスになると言ってよい。美大入試と違って、浪人を何年も重ねる選択肢はありえないのだ。

そして、浪人できない事情が加われば、チャンスはたったの1度きりとなる。

そのプレッシャーは並大抵ではない。

「アラ探しの数十の冷たい視線」にさらされること

器楽科専攻の担当教官らの前で、1次は音階とパガニーニを弾く。

まずは正確に。「アラ探しに余念がない数十の冷たい視線」をものともせず、ミスしないで、正しい音程で弾き切らなければならない。

「ミスできない」という思いに、上記の「チャンスは1度きり」という思いが重なってくると、相当に追い込まれた精神状態となる。かなりのプレッシャーが受験生に襲い掛かってくると考えるべきだろう。

そして、プレッシャーがあるからと言って、演奏が安全運転に終始していいわけではない。(特に2次の協奏曲では)

「寒さ」

専攻実技の試験は2月末から始まる。まだ冬は終わっていない。

室内の暖房が十分でも、手先が冷えて、かじかんで、そこにプレッシャーが加わると、満足に指が動かずに普段の演奏ができなくなる危険性がある。

「共通テストの結果」が胸の奥で “ひっかかっている”

2021年から導入される共通テストは、これまでのセンター試験と同様、自己採点によって専攻実技試験の前にその得点がすでにわかっていることになる。

センター試験では「6割は欲しい」とされていたので、共通テストも同じような得点ラインが想定されるが、2020年の募集要項に記載されたように、その年度の基準点を下回った場合は不合格となる可能性がある。

おそらく7~8割取れていれば心配はなくなり、メインの専攻実技に集中できるが、5割を切って3割~4割レベルに低迷してしまうようだと、胸の奥にこの共通テストの芳しくない結果がひっかかったままとなる。

とても不安な心理状態の中で、専攻実技に臨まざるを得なくなってしまうのだ。

専攻するバイオリンと、割合はそれほどでもないが決して軽んずることができない勉強との両立が、厳しく試される機会こそが入試なのである。

あらゆる事態を想定しておく

リスク対策の基本は、まずあらゆる事態を想定しておくこと。

上記の不都合な真実を「見ないふり」して、入試当日に、いきなりその現場に立たされて、「こんなはずではなかった」「こんなに緊張するとは思わなかった」となってしまうことだけは、まず避けなければならない。

「チャレンジは1度きり」という切迫した状況の中で、「アラ探しの数十の冷たい視線」にさらされ、「寒さ」に手がかじかみ、「共通テストの結果」に気が重くなりながらも、試験場ではミスなく闊達に表現豊かに演奏を完遂しなければならない。

そう考えると、受験はコンクールの季節を過ぎた後の付け足し程度のイベントでは決してあり得ないことがわかるだろう。

もっとも藝高生の場合は、同様の(あるいはそれ以上に苛酷な)事態と心理状況を藝高受験時にすでに1度経験済みで、そこを切り抜けてきている。それはかなりの強みとなるだろうが、もう1度、入試のプレッシャーをはねのけたハイパフォーマンスを試験場で実践しなければならない。

そして、共通テストの出来は、多くの藝高生にとっては無視できない “ひっかかり” となるかもしれない。

どんな状況でも弾ける訓練、共通テスト対策、楽器へのケア

あらゆる事態を想定した上で、講ずるべき対策の基本は、プレッシャーがかかる状況でも普段の練習の成果が出せるように訓練することに尽きるだろう。

人前で、できるだけ音階やパガニーニを弾く。それも朝起きた直後や、運動したり移動した直後などに、一切の準備なしに、すぐに弾いてみる等、どんな状況でも当たり前に弾けるようにトレーニングする。

また、控え室で手袋をはめる等の冬場の寒さ対策も、日頃から意識して行い、習慣化しておく必要がある。

そして、共通テスト科目の国語と英語。普段の授業と定期試験にまじめに取り組むことと、受験期は夏休み前から共通テスト形式の問題集を使って、徹底的なパターン・プラクティスを繰り返すことだ。必要なら模試も受けておきたい。

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あとは、楽器へのケアも怠りなく。これはコンクール前でも実践していると思うが、入試前は特に念入りに、弦の張り替え、弓の毛の張り替え、楽器の調整のタイミングをよく見計らって、試験場でトラブルなく最高の状態で演奏できるようにチューンナップを万全に施しておく必要がある。

受験用にもし楽器を借りる場合は、その楽器がどれくらい違いを生み出せるのかという点と、扱い慣れた自分の楽器がもたらす安心感・操作性とを天秤にかけて、慎重に判断する必要があるだろう。

借りた楽器だと、弦の張り替え時期や調整の時期も、今までの楽器と異なってきて、経験が生かせなくなる可能性があるので、その点は大いに注意する必要がある。

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