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【芸大入試のリアル②】「現実倍率」と「黒ひげ危機一髪」

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もうひとつの倍率の存在

2019年度の東京藝大音楽学部器楽科の入試結果は以下の通りであった。

 募集人員: 98名  志願者: 423名  受験者: 418名  合格者: 99名

受験者数÷合格者数の「実質倍率」は、4.2倍である。

しかしながら藝大器楽科入試においては、藝大大附属高校(藝高)出身者以外の学生(以下、外部生)にとって、この「実質倍李」とは別に、より実態に近い入試競争率を示す、もうひとつの倍率が存在する事実を指摘しておかなければならない。

それは、藝高生の藝大器楽科合格率が外部生のそれよりかなり高く推移しているという過去の経験則を踏まえた上で算出される、外部生にとっての現実的な難易度を示す倍率である。

ここではそれを「現実倍率」と呼ぶことにしよう。

藝高の公式サイトには、各年度の生徒の藝大受験結果が公表されている。

2019年度入試においては、藝高生(2018年度卒)は現役40名が藝大を受験して、合格者は37名だった。

つまり藝高生内での「実質倍率」は約1.1倍。過去5年間を見ても、ほぼ1.1倍で推移しており、40名ほどが受けて、2~4名が不合格になるパターンが続いている。

藝大入試よりも難関と言われる藝高入試を突破したのに、それでも2~4名が藝大を不合格になってしまうというのは、藝高生にとっては考えたくない「不都合な真実」である。

しかしながら、外部生にとってはそれ以上に、藝高生の合格率の高さが厳然と存在することを思い知らされるデータであろう。

つまり、この「藝高枠」を取り除いて考えないと、外部生にとっての本当の競争倍率は出てこないことになる。

「実質倍率」4.2倍⇒「現実倍率」5.6倍

2019年度に藝大を受験した40名の藝高生のうち、過去の藝高入試の楽器別合格者のデータから推計すると、器楽専攻の受験者は34名で、合格者は31名程度と考えられる。

あくまでも推定値であるが、さほど現実から遠い数字ではないだろう。

すると、2019年度の藝大器楽科入試の外部生にとっての「現実倍率」は、受験者384名(全体418名-藝高34名)、合格者68名(全体99名-藝高31名)より、5.6倍だったことになる。※注)藝高の過年度卒業の受験生の合格率は推計に加味していない

無論、管楽器では年度によって藝高生がいないパートもあり、倍率の持つ意味は楽器によって異なってくるが、受験者の多いヴァイオリンやピアノではこの倍率が持つ意味は小さくはない。

ヴァイオリンの場合、20名ほどの藝大合格者のほぼ半数は「藝高枠」と考えておくべきだろう。

まとめ

外部生は「実質倍率」を1.3~1.4ポイントあげた「現実倍率」を想定しておく。

孤高を行く外部生、「黒ひげ危機一髪」状態の藝高生

外部生が感じる「藝高の壁」は、倍率だけに留まらない。

実技試験の会場は藝大で、藝高生にとっては「ホーム」、外部生にとっては完全「アウェー」となる。

試験官は藝大弦楽専攻の教官らで、高校での実技レッスンや試験で藝高生にとってはお馴染み。気持ち的に「ホーム」というのは強みとなる。

「私ら藝高生」というプライドも加わって、「同調行動を取りがちな」(俗な言葉で「つるみがちな」)藝高生を横目に、外部生は孤高を貫かねばならない。

実技試験が1次、2次と進行するにつれて、当然ながら受験生に占める藝高生率は高まっていく。

首都圏なら、高校は違えど、同じ門下だったり、「学生音コン」や他のコンクールで顔馴染みだったりと、言葉を交わせる藝高生は見つかるかもしれないが、それ以外の地域から来た外部生にはそれもなかなか難しくなる。

一方、藝高生も、「ホーム」での戦いに気を緩めている場合ではない。

2~4名は確実に「落ちる」のだ。

誰が「危機一髪状態の黒ひげ」をジャンプさせるのか。

専攻実技はともあれ、共通テストについては、その平均点は外部生よりも藝高生のほうがおそらくは低いであろう現実が存在してもいるのだ。

「壁」は、グローバル化の阻害要因

藝高生と外部生との間に見られる心理的な「壁」は、えてして入学後も存在し続けることにもなりかねない。

附属高校のある私立大学などではよく見られる現象ではあるが、やはり藝高生は外部生に気さくに声をかけ、外部生は藝高生の輪の中に飛び込んでいくなどして、お互いに壁を取り除いていく努力をする必要があるだろう。

グローバル人材とは、「専門性」と「創造力」と「教養」を持ち、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するための「コミュニケーション能力」と「協調性」を持っている人のことを言う。

安心し気を許せる者同士だけで固まるという行動パターンは、海外に出た時には、外国語ができないことも加わって、今度は日本人だけで固まるという行動パターンへと容易に転換しがちだ。日本人のこれまでの悪しき習性に陥ってしまうことになりかねないのだ。

だから、固まらず、誰とでも融和できるようにする。

グローバル時代は、そんなメンタリティを養っていくことが求められている。


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