日本の梅雨は楽器の支障を顕在化させる
そろそろ楽器が湿気てくる季節です。
ヴァイオリン族は、梅雨も台風もないヨーロッパで生まれた楽器であることを忘れてはいけません。
高温多湿に加えて熱帯化が進む日本の夏に、西洋音楽が演奏され、鑑賞され得るのは、ひとえにエアコンのおかげです。
ところが我々は、ともすればその気候の違いを忘れ果てています。ヨーロッパでは何も問題ないように見えた楽器でも、日本でひと夏を越すと、膠がはがれた、指板が下がった等々、支障が顕在化するケースは少なくありません。
特に「値頃感のある」オールドは要注意です。
もともとヨーロッパでは基本的に「弱い」調整しか行っていませんから、楽器はいわば「寝た子」です。これを日本に持ち込んで急激な湿度変化にさらすと、「寝た子」を起すことになるわけです。
日本ならホール用の「強い」調整も受けられる
きちんとした工房、楽器商では「まる1年は様子を見ないと」と言う程です。
現地駐在が終わり帰国する段になって安いからと、中途半端な楽器に飛びつくとあとで後悔することになりかねません。
帰国してから信頼できる楽器商、工房を紹介してもらって、希望価格を告げれば、まず間違いのないものが入手できますし、ホール用の的確な「強い」調整も受けられます。
値段不相応なものをつかんだとすれば、それは紹介者や購入先の肩書き等に惑わされた結果で、それは日本でも欧米でも変わりません。
在欧の邦人演奏家は、その殆どが帰国時には必ず立ち寄る駆け込み寺的な工房を持っています。
日本人調律師のレベルの高さは良く知られたところですが、弦楽器の調整についても欧米と比べても引けを取るものではありません。それはこの日本の気候、梅雨と台風に鍛えられた結果です。
楽器を鳴らすのは値段よりも、奏者の技術と日頃の手入れ、調整者の腕だと言えます。特に後の二つに対する認識をもっと深めて頂きたい思います。