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【コロナ禍】それでも音大を受験する人が大切にすべき3つの事

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コロナ禍の今こそ、音大をめざす “意義” を考えよう

新型コロナウイルスの感染拡大は、クラシック音楽業界に大きな打撃を与えています。

緊急事態宣言により、すべての公演が中止や延期を余儀なくされ、音楽家は仕事を失い、ホールは経営難に追い込まれてしまいました。

その後、感染対策を施して客席数を制限しながら公演は徐々に再開され、9月19日からはホールの収容人数を100%とすることが認められるようにはなりましたが、まだまだ先は見えない厳しい状況が続いています。

コロナ禍以前から、クラシック音楽を取り巻く環境は、言うまでもなくとても厳しいものがありました。

減少する一途のコンサート動員数とCDの売れ行き、赤字が常態化したホール経営。

ビジネス的に見て将来像を描くことは極めて難しい状況にあります。

そして、少子化が拍車をかけ、専門の道をめざす人も減っています。

厳しい状況は、海外も同じです。

オベラハウスやオーケストラの財政はひっ迫し、公演の集客数も芳しくありません。

団員の給料遅配やストライキなども起こる中、今回のコロナ禍でさらに状況は悪化し、団員やスタッフの解雇がニュースとなっています。

欧州では政府の補助が日本よりは手厚い場合がありますが、それがどこまで継続できるのか。その余裕は、もはやどの国にもないと言えるかもしれません。

どこもかしこも、将来音楽の道をめざすことを諦めさせるような材料にあふれています。

「音大なんかに行ってどうするの?」

耳にしたくない問いです。

直接、そう問われることはないにしても、進路に関心を示す多くの目は、今、確実にそう問いかけてきます。

「音大なんかに行ってどうするの?」

あるいはそれは、人に直接問われずとも、自分の心の内に、明確に浮かんではこないものの、潜在的にリフレインされ続けているフレーズなのかもしれません。

だから、もうここでは、いちいちマイナス材料を細かにあげることはやめましょう。

むしろこういう時代だからこそ、あえて、音大をめざす意義に、多くの言葉を費やしたいと思います。

photo by Andreas Praefcke

どこにも「安定」などない

あなたが、就職のことを考え、安定の道を求め、やはり音大よりも一般の大学に進んだほうが良いと思ったとしても、そちらの道にも用意された安定があるとは限らないことは知っておいたほうがいいと思います。

終身雇用、安定した老後が保証される時代ではなくなりました。

人は安定を求めますが、その安定は寄りかかれるもの、依拠できる基盤があってこそ、成立するものです。

しかし、すでにでき上がった基盤は、だんだんともろくなっていきます。

新たなものを創り出し、常にそこにつけ加えていかなければ、社会も組織も成長することはできません。

これから求められるのは、その成長を生み出すための、不安定を厭わないチャレンジ精神ではないでしょうか。

だから、働いている間は、本来はどこにも安定などないと考えるのが正しいのです。

入った世界で、与えられた環境と条件の中、前を向いて不断の努力を重ねつつ、新しい道を切り開いていく必要があります。
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後戻りできないから、このまま進む?

これまで、かけてきたレッスン費用などの「投資額」、重ねてきた「努力の量」。それにより培われた専門家の卵としてのキャリア。

ここまで来たのだから、もう今更、後戻りはできない。

暗雲漂う将来など見ないふりをして、跳んでしまおう。

音大に進む人の中には、そんな心境にある人もいるのかもしれません。

もし、あなたが、音楽的な能力を持ちつつ、さらに学業も優秀で、将来つきたい職業に明確なヴィジョンを持ち、それに向けて努力を厭わないつもりなら、音大などに進む必要はないのかもしれません。

しかし、他の道はない、どうしても音大を選ばざるを得ないと考える人は、何を拠り所にして、この専門の道に進み出て行けばいいのでしょうか?

「もう、後戻りはできないから、このまま進むしかない」では、何か足りないのではないでしょうか?

後悔のない決断をするために、あらためて、当たり前でシンプルではありますが、ある問いを自らに投げかけてみることを提案したいと思います。

それは、専門の道に不可欠の3つの要素をあなたが持っているかどうかの問いです。

もちろん、経済的に音大に行ける状況にあるかどうか、そのことは大前提としてあります。

もし、行ける状況にあったとして、その上で、自らに徹底的に問い詰めて欲しいのです。

自分にはこの3つの “sion” があるのか、と。
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(1) Passion(パッション) 「情熱と受難」

演奏を心から楽しいと思えますか? 何があっても、一生、情熱をもって音楽に取り組んでいけますか?

中途半端に楽しいではだめです。楽しいと無理やり思い込むのもだめです。惰性で演奏しているのもだめです。

本当にあなたは、人前で、心の底から、楽しいと感じて舞台に立っていますか?

情熱を持てないあなたの演奏など、聴衆は絶対に聴きたいとは思わないでしょう。

そして passion には「受難」の意味もあります。

音楽を一生続けるという労苦は天から授かったものと、あなたは思うことができるでしょうか?

情熱を持てるもののために練習し、血のにじむような努力することに、これから先、一生、耐え続けていく覚悟があるでしょうか?

あなたはこの「受難」を受け入れることができるでしょうか?

それを根本的に自らに問いかけて欲しいと思います。

(2) Vision(ヴィジョン) 「心に描く未来像」

情熱は熱しやすく、冷めやすい側面があります。

それを長続きさせて、不断の努力へと向かわせるものは何でしょうか?

めげないで、受難に耐え続けていくために、必要なもの。

それは「ヴィジョン」です。

将来、あなたはどうありたいと思うのでしょうか? 心に描く未来像は何でしょうか?

ソリスト、コンマス、オーケストラ団員、教育者・・・

具体的な職業ではないものも、「ヴィジョン」になり得ます。

「ヨーロッパの街角で、歌劇場の仕事の合間に、カフェでコーヒーを飲んでひと息つく自分の姿」でもいい。

「自分の子供にいちから楽器を教える姿」でもいい。

あなたは音楽に携わる、どのような自分の姿を、将来において見ているのでしょうか?

その姿に、心の底から喜びを見い出せるでしょうか?
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(3) Profession(プロフェッション) 「公言できる技能・強み」

ここで言う profession (「職」)は、生計のための営みではなく、「手に職を持っている」という意味の「職」、技能や強みの意味です。

そして、profession には「公言」の意味もあります。

他人に公言できる技能や強み。人に負けないと思えるものを、何かひとつでもあなたは持っているでしょうか?

演奏が上手いだけではありません。コンクールの実績があるだけでもありません。

初見が得意、アナリーゼが深い、リズム感が凄い、アンサンブル能力が人並み外れている。

あなたはどんな取り柄や強みを持っているのでしょうか?

容姿に華があるのも、強みのひとつ。

努力が苦でない、エネルギッシュ、人を統率できる、コミュニケーション能力が高い、語学力がある・・・

人と比べて、どうなのかではありません。

重要なのは、堂々と自ら公言できる強みがあるかどうかです。

専門の道に進む以上、それは絶対に必要なものです。

「それだけ」ではない人生をつかむために

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Passion、Vision、Profession

この3つの “sion” を持っているのなら、あなたは音大に行くべきです。

そこには、心に描く未来像に向けて、日々情熱をもって受難に耐え、自らの強みを磨こうとするあなたのために、専門機関ならではの環境・設備・育成プログラムがきっと用意されているはずです。

そしてこの3つの “sion” を持っている人こそ、人類の貴重な文化遺産であるクラシック音楽を伝道する役割を担ったエヴァンジェリスト(伝道者)と言えるでしょう。

あなたは伝道者となるべく選ばれた人なのです。

「エヴァンジェリスト」とか、ちょっと大げさで宗教的?

ええ、でも、いいではありませんか。ミッションは大きいほうがいい。そして歴史上、クラシック音楽と宗教は密接な関係にありました。

「パッション」と「ヴィジョン」はある。けれども「プロフェッション」があるかどうかはよくわからない。

そんな人もいるかもしれません。

その場合は、音大に入った4年間は、「プロフェッション」の芽を見つけ、それを徹底的に磨き上げることが、あなたの最大の使命となります。

簡単に諦めてはいけません。

実技試験の成績やコンクールの実績だけで、めげていてはいけません。

ソロでなくてもアンサンブルやオケがあります。演奏でなくてもソルフェや楽理や外国語やマネジメントが、そして指導者としての教授法があります。人脈作りもあります。

あなたが専門家養成機関に入った以上は、とにかくどんなものでもいいですから、自分の「プロフェッション」を創り出さなければなりません。

大学の4年間で、最も重要なのは、どれだけ何かに打ち込めるか、です。

それは就職や安定のためだけにあるものではありません。

「それだけ」ではない人生を、豊かなものにするために。

悔いのない選択をされることを心より願っています。


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