日本人はなぜ英語が苦手なのか?
中学と高校で6年間英語を学んでも、日常会話すらままならない。
多くの日本人は英語にコンプレックスを持っています。
それはなぜでしょうか?
理由は2つ考えられます。
「学習時間」と「環境」の圧倒的な不足です。
まず学習時間ですが、ここに興味深いデータがあります。
アメリカの国務省の職員が、外国に赴任する際に、その国の言語をマスターするのに何時間の授業が必要かを示すデータです。
それによると、英語を話す彼らにとって日本語は修得するのに最も難しい言語グループに属していて、日本語の日常会話をマスターするのに必要な授業時間は約1000時間(※1)。
そして、日本語で仕事をこなすために必要なレベルとなると、約2500時間(※2)の授業が必要だということです。
この時間はあくまでも国務省の外交官候補の授業時間であり、また一定期間日本語漬けにして集中的にトレーニングすることを前提にしています。
一般のアメリカ人が日本語をマスターする場合はさらにもっと多くの時間を要するはずですが、以上を踏まえると、逆に日本語を話す私たちが英語の日常会話をマスターする場合も、おそらく最低1000時間は授業が必要だと推定できるでしょう。
ところが、日本の中学・高校の6年間の英語の総授業時間数は、約850時間(※3)です。
つまり、6年間英語を学んでも日常会話もまともにできないのは、当たり前の話。
私たち日本人は英語の学習時間が圧倒的に少ないのです。
(※1)CEFR基準(語学の熟達度を測る国際基準)のA1・A2(基礎段階の言語使用レベル)に到達するのに720~1400時間。1000時間はその平均。
(※2)CEFR基準のB1・B2(自立段階の言語使用レベル)に到達するのに2400~2760時間。2500時間はその平均。
(※3)1年40週で週3~4時間の授業とした場合の平均。
英語に接する「環境」
不足しているのは学習時間だけではありません。
ボーダレスで人の行き来や移民が多いヨーロッパの国々などには、日常的に複数の言語が使われている地域もあります。
そこでは英語が共通語として、日常生活を送るための欠かせないツールとなっています。
しかし、日本に住んでいれば、日常生活で英語を使う必要はほとんどありません。
日本では英語に接する「環境」がほとんどないのです。
最近は外国人観光客も増えてはいますが、せっかく英語に接する機会なのに、多くの日本人は彼らとの積極的なコミュニケーションを避けて通りがちです。
音楽用語のみでコミュニケーション成立
前置きが長くなりましたが、日本人が英語を苦手とする以上の2つの要因(学習時間と環境の不足)のうち、ヴァイオリンやピアノ学習者は、実は「環境」の面でとても有利な状況にあります。
専門をめざして楽器を学んでいる場合、国内の講習会やマスタークラスで、海外の先生のレッスンを受ける機会は小学生の頃からたくさんあります。
その際、フランス人やドイツ人の先生であっても、レッスンはほぼ共通語の英語で行われます。
そして音楽用語は万国共通です。
「フォルテ!」「クレッシェンド!」「ヴィブラート!」
最初は英語がまったく分からなくても、キーワードとなる音楽用語と声の調子、身振り手振りだけで、先生が何を言わんとしているかは、小学生でもほぼ理解できるでしょう。
海外の先生のレッスンを重ねていけば、英語で意思疎通する貴重な場数を踏むことができます。
やがて、曲の解釈や背景を説明する先生の英語を理解しなければならない必要性に迫られることになります。
また、「ここはどう弾きたいの?」という先生の質問に、英語で答えなければならない必要性にも迫られるでしょう。
こうして楽器に打ち込む学習者は、どうしても英語を使わなければならない環境に置かれることになるわけです。
楽器学習 2つのメリット
そして、専門をめざす楽器学習者は、何よりも「耳がよい」というメリットがあります。
常日頃から聴音を鍛えているので、英語を聴き取る力も自然に養われていきます。
英語の修得に最大の効果を発揮するのは、留学するなどして英語にどっぷりつかる日常生活を送ることですが、日本国内にいても、この「環境」と「耳」という2つのメリットを持つ楽器学習者なら、英語を身に着けることは十分に可能です。
小学校高学年から毎年、国内の講習会やマスタークラスで外国人の先生のレッスンを通訳なしで受講する。
夏休みには短期で海外の講習会に参加する。
ジュニアの国際コンクールに挑戦する。
これを中学・高校と続けていけば、英語に接する機会はかなり増えます。
そして、英語上達に有利な位置にある自分をさらにステップアップさせるために、必要となるのは「学習時間」の確保です。
ヴァイオリンやピアノが忙しすぎて、英語なんてやっている暇がないというのは、せっかく与えられた2つのメリットを宝の持ち腐れにしているようなものです。
できるだけ早い時期から着実に英語の学習時間を積み重ねていきましょう。
そうすれば、学校の限られた授業時間を補って、英語をマスターできる十分なレベルに到達できるはずです。
by: 杉山一太(塾講師)
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