King Gnu(キングヌー)が、まだあまり売れていなかった頃、常田大希はこう言った。
「今一番売れている音楽が、最も良い音楽だなんて思わないでほしい」
最高のクォリティの音楽を、日本で一番売れる音楽にしたい。
そんな野望は、メジャーデビューからわずか1年で実現した。
2019年の年末に NHK 紅白歌合戦に出場、年明けの1月15日にリリースしたサードアルバム『CEREMONY』は、発売1週間でいきなり25万枚を売り上げ、Billboard 週間アルバムチャートで首位に躍り出た。
また、メガヒットチューン「白日」は、「オリコン週間ストリーミングランキング」の週間再生数(533.5万回)で歴代1位を記録。
革新的でありながら、多くの人々を魅了し、楽曲・ボーカル・演奏・アレンジ、あらゆる面において、他をしのぐ驚くべきレベルにあるバンドと言っても過言ではない。
J-POP シーンにおいて、最強のバンドと呼ぶにふさわしい King Gnu の類いまれなスペックと戦略を明らかにする。
※この記事は敬称を省略します。
【サウンド力】キャッチーで、凝った音作り
日本では、曲作りにおいて本格的な洋楽系のアプローチをとると、サビや歌謡性に慣れたリスナーの耳には少々縁遠いサウンドになりがちだ。
そこで、親しみやすいメロディを縦横に駆使しつつ、インストバンド級の強力なリズムラインで下支えして、グルーヴ感を引き立たせる。
マンネリズムを排した多彩な展開に、特異な転調とリズムパターンを加え、精巧なアレンジを施す。
キャッチーで聴きやすいが、鳴っている音は凝りに凝っていて、とてもマニアック。
この矛盾の対置、違和感の表出こそ、 King Gnu の真骨頂と言える。
バンドとしての技術があり、生音は十分にクォリティが高い。
しかし録音では、エレクトロサウンドを大胆に取り入れ、トラックを重ね、精緻に作り込む。
アンサンブルを重視し、ソロパートの主張は抑え気味。もちろん、ここぞというポイントでは一点豪華なソロがフィーチャーされる。
そしてミキシングが立体的な響きを絶妙に演出する。
同じ曲をイヤフォンで聴くと、その醍醐味がわかる。
「これ、イヤフォンで聴くと、凄い!」とリスナーは新鮮な驚きを覚える。
イントロがなく、冒頭から耳を惹きつけるフレーズを次々とたたみかける曲もあり、ストリーミングに慣れた移り気しやすいリスナーへの訴求にも抜かりがない。
メガヒットチューン『白日』の3つの主要なメロディ(通称Aメロ・Bメロ・Cメロ)は、すべてがサビと言えるほどの強度とこだわりで作られている。
既存の J-POP 音楽では考えられないアプローチだ。
女声とまがう高音域のボーカルが紡ぐバラードだが、一方でベースとドラムがファンキーなリズムを刻む。
どちらも技巧的に群を抜くレベルだが、主張しすぎず、共存し、対比され、提示される。
ボーカルが心地よいメロディーラインを動いていくだけの音楽ではない。
徹底的に尖ったセッション系の技巧バリバリの音楽でもない。
両方をほどよく対置する。
録音ではその絶妙のバランス感覚が光っている。
【演奏力】炸裂するロウ感
精緻に作り込まれた録音から一転して、ライブではアレンジを変え、バンドとしての強圧的なロウ(生)の音で攻め立てる。
スキルフルな奏者たちによる自在のプレイが前面に押し出される。
言わば、録音とライブの対置だ。
だから同じ曲が全く別の相貌を表し、異なった感動を呼び起こす。
2020年1月17日放映の TV 番組(「Mステ」)で展開された「Teenager Forever」のライブ演奏がよい例だろう。
この曲は録音では生ドラムやアコースティックギター(アコギ)が活躍するが、ライブでは常田大希のアコギがエレキギターに替わり、井口理が独特のためを作りながら情感をクレッシェンドさせる演出が見られた。
勢喜遊のロックフィーリング全開のドラミング、新井和輝の強烈にうねるベースライン、常田大希の歪みの強度を増したギターソロは、絶妙のカメラワークと相まって、ライブならではの効果を生んでいた。
井口理は、便所サンダルが脱げてしまうほど、完全に振り切ったパフォーマンスで暴れ回ったが、歌唱のほうは決して乱れず、音程も確かだった。
King Gnu のライブではアコースティックコーナーがあり、力強いサウンドから一転、たおやかで親密な雰囲気の中、洗練されたソロとインタープレイが展開され、このバンドのもうひとつの魅力が引き出される。
とりわけ、「It’s a small world」のアコースティック・バージョンは、この上なく美しい。
CEREMONY (初回生産限定盤) (Blu-ray Disc付)
特典Blu-rayには2019年4月に行われた東京・新木場STUDIO COAST公演のライブ映像全20曲を収録
一定の型やスタイルに収れんされず、自由にクリエイティブにプレイする。
そんな真のアーティスト性を有したこのバンドは、自由だから、ライブだから、少々音が雑になってもいい、などという甘い考えとはまったく無縁だ。
ライブ演奏では、直後に必ずメンバー同士で演奏の出来を細かくレビューしチェックし合う。
バンドの屋台骨のリズムラインを支える新井や勢喜は、アドリブ一発勝負で音をフィニッシュさせるジャズやブラックミュージックのセッションシーンでならしてきた。
King Gnu としてメジャーになった今でも、彼らが自らの原点となったライブハウスへの出演を継続していることは、2020年2月23日に放映された「情熱大陸」でも明らかだ。
彼らは師匠宅に泊まり込みで弟子入りするほど、一途に技術を追求する職人気質のストイシズムを持っている。
門下に弟子入りし、練習漬けの日々を送った点では、東京藝大出身の常田や井口と重なる部分がある。
King Gnu が薄っぺらい音を奏でるバンドとは比較にならないレベルのスペックを備えているゆえんがここにある。
【ボーカル力】ファルセット&ユニゾン 清濁の対置
井口は東京藝大声楽科のテノール専攻卒で、クラシック唱法のトレーニングを積んだ基礎がある。
声量と声質もさることながら、音程の正確さでは J-POP の歌手の中では抜きに出ている。
かなり高いピッチの音も絶対に外さない。
ファルセットの使い手としては随一の井口が、その真価を発揮した一例が、「Hitman」のライブ・バージョン。
後半の超高音域でのスキャットはまさに圧巻だ。
CEREMONY (初回生産限定盤) (Blu-ray Disc付)
特典Blu-rayには2019年4月に行われた東京・新木場STUDIO COAST公演のライブ映像全20曲を収録
音楽を読み取る能力も高く、常田が作る複雑な構造の楽曲を即座に吸収し、モチーフの機微をわきまえ、隅々の音符まで、ゆるがせにせずに歌うことができる。
バラードやアコースティックはもちろん、疾駆するロックチューンも、ストップ&ゴーのファンクナンバーも、井口が歌えば美しく洗練された響きとなる。
たとえグランジにシャウトしても、それはあくまでも「音楽的に」汚れた効果を表現するスキルのひとつだ。
井口と常田のユニゾンでは、ダミ声系のダークな味のある常田の声と対置され、メロウなサウンドはひときわ甘美になり、クリスピーなファンキーナンバーはその高揚感を増す。
相反する2つの声のキャラクターの対置。
ここにも強烈な印象を与える仕掛けがある。
【戦略性】これ以上のものを出せる「余裕感」
作曲も演奏もきわめて強度は高いが、J-POP の標準を考慮し、一方の極を追求しすぎない。
万人受けするメロディーと精巧で重層的なサウンド構造、ウェルメイドな録音と炸裂するライブプレイ、ミューズの高音と堕天使のダミ声。
相反するものを対置して提示し、今までにないインパクトを与える。
そして、これ以上にハイレベルな曲は作れるし、実際に常田は別のプロジェクト(“millennium parade”)で、その実践を重ねている。
新井が、紅白歌合戦に出場した後、年が明けて最初の演奏の場として選んだのはジャズバンドのギグ。そこでウッドベースを弾いた。
アーティストとしてのキャパシティの大きさと、そこから生じる余裕感。
それが King Gnu というバンドのブランド力を際立たせる。
見すえるのは世界進出
2020年1月27日、常田大希率いる millennium parade が、2020年春に NETFLIX が全世界独占配信する「攻殻機動隊」シリーズ最新作 『攻殻機動隊SAC_2045』のオープニング・テーマ曲を担当することが発表された。
常田は、millennium parade が創造しようとする世界観は攻殻機動隊から多大な影響を受けたと語り、このコラボレーションへの強い意欲を示した。
また常田は、ファッションブランド「N.HOOLYWOOD」のニューヨーク・コレクションの音楽を担当し、2020年2月4日にアメリカ・ニューヨークの Masonic Hall NYC で行われたショーで自身の制作した音源に合わせてチェロの生演奏を披露した。
楽曲は、ニューヨーク出身の現代作曲家スティーヴ・ライヒへのオマージュとも言えるミニマルな音型の反復から、次第に熱量と緊張を増幅させた響きが劇的に展開し、「フォーマルの再構築」を謳うコレクションのテーマを見事に表現した。
”N.HOOLYWOOD COMPILE FALL2020 COLLECTION”
終演後に常田は、今回のニューヨークでのパフォーマンスを、今後、音楽家として様々なジャンルの作品を世界に向けて発信していく足がかりにしたいと語った。
ファッションデザイナーの山本耀司、川久保玲、映画監督のスタンリー・キューブリック…
常田は刺激や影響を受けた様々なジャンルのアーティストの名前を挙げるが、音楽に関しては、彼の視線の先にあるのは、おそらく坂本龍一だろう。
坂本は東京藝大作曲科卒。大衆に背を向け純粋芸術に閉じた現代音楽の領域から脱して、YMO を結成し、そのワールドツアーを成功させ、テクノポップという新たなジャンルを開拓した。また劇伴音楽の分野でも世界のトップクラスに登りつめた。
King Gnu のボップネスはどのようにして海外に訴求しうるのか。
3D 映像と音楽とのコラボレーションによって新次元のライブ体験を提示する millennium parade による世界進出は果たされるのか。
King Gnu がたった1年で国内最強バンドとなった今、それらもまた、従来ないスピードで実現への歩みを進めていくに違いない。
by: 三木拓(音楽ライター)
発売1週間で25万枚 Billboard 週間アルバムチャート首位獲得
革新的でありながらポップでキャッチー
クラシック、ジャズ、R&B、ヒップホップ、ハードロック、ラウドロック あらゆるジャンルをのみ込む J-POP 史上の金字塔
最強のメロディ・リズム・サビ
極上のボーカル・演奏・アレンジ
CEREMONY (初回生産限定盤) (Blu-ray Disc付)
全曲ダイジェスト試聴
King Gnu 3rd ALBUM 「 CEREMONY 」Teaser Movie
下記で『CEREMONY』の全曲レビューとKing Gnu についての最新記事(2020/2/23付)を公開中